右利き社会で生きる左利きという個性
世界の大多数は右利きで、左利きが右利き中心の社会でどんな不便や工夫を強いられているか、実際にはあまり理解されていません。
左利きの生物学的・心理学的特徴、さらには進化との関わりについても、これまでに多くの研究が行われてきました。
左利きの人は、右利き用に設計された道具や環境に合わせる必要があるため、より自立心が育ちやすいという見方もあります。
一方で、昔は「悪魔は左利きだ」といった迷信から、左利きの人が魔女や邪悪な存在と結びつけられることもありました。
ハサミや道具を使うときに苦労する場面はあるものの、左利きにはまだまだあまり知られていない興味深い特徴がたくさんあります。
ここでは、左利きの人に関する意外でおもしろい豆知識をまとめて紹介します。

左利きに関する興味深い17の事実
1. 世界人口のおよそ12%が左利き
おおまかに言うと、世界全体で
- 左利き…約12%
- 右利き…約87%
- 両利き…約1%
とされます。
左利きであることへの偏見が減ってきたことで、左利きの割合は少しずつ増加しているともいわれています。
それでも、今でも一部の国や地域では、子どもに無理やり右手で字を書くよう矯正する習慣が残っています。
一八六〇年頃には、左利きは「悪魔と同じ側」とみなされることもあり、人口に占める左利きの割合は、わずか2%ほどだったと推定されています。
現在の「約12%」という数字は、国や性別によっても少しずつ異なります。
2. 8月13日は「国際左利きの日」
毎年8月13日は「国際左利きの日」として知られています。
この日は、左利きが直面している不便さや課題に気づいてもらうこと、そして左利きの個性を祝うことを目的とした記念日です。
この日が初めて制定されたのは一九九二年、イギリスの「左利きクラブ」という団体によるものでした。
3. アメリカには左利きの大統領が多い
近年のアメリカ大統領の中には、左利きが何人もいます。たとえば、
- ジェラルド・フォード
- ジミー・カーター
- ロナルド・レーガン
- ジョージ・H・W・ブッシュ
- ビル・クリントン
- ジョージ・W・ブッシュ
- バラク・オバマ
- ドナルド・トランプ
- ジョー・バイデン
など、ホワイトハウスの執務室を左利きが占めた例は意外と多いのです。
4. 言語処理を両半球でおこなうため高い知能と関連?
左利きの脳は「不均質な構造」を持つことが多く、言語情報を左右両方の大脳半球で処理できる人が比較的多いとされています。
一般的な右利きの場合は、
- 右半球…空間認知や視覚情報
- 左半球…言語情報の処理
と、役割分担がはっきりしていることが多いのに対し、
左利きは口頭情報を左右両側で処理しやすく、より多くの情報を同時に扱えるため、知能の高さと関連する可能性があるという研究もあります。
もちろん、左利き=必ず高知能というわけではありませんが、脳の使い方に特徴があるのは確かだと考えられています。
5. 脳卒中後に言語機能が回復しやすい
脳卒中が左脳に起こると、言語機能が大きく損なわれることがあります。
右利きの約95%は、言語をつかさどる中枢が主に左脳にありますが、左利きではおよそ70%程度しか左脳優位ではありません。
そのため、左利きは言語機能が右脳にも分散しているケースが多く、脳卒中後に言葉を取り戻せた人の割合は、右利きより左利きの方が多いという報告があります。
6. アレルギーになりやすい傾向
「大脳優位性の生物学的基盤」をテーマにした研究書では、
左利きの人は右利きに比べて、アレルギーを発症する確率が約11倍高いという結果が示されています。
さらにこの研究では、潰瘍性大腸炎や関節リウマチなど、自己免疫疾患を抱える割合も、左利きは右利きの約2.5倍だったと報告されています。
7. スポーツで有利になることが多い
左利きは、特定のスポーツで有利になると言われます。たとえば、
- フェンシング
- ボクシング
- テニス
- 野球
- 水泳
などです。
右利きの選手は、ふだん右利きの相手と対戦することがほとんどです。
そのため、左利きの相手と対するとボールや攻撃の角度・タイミングが変わり、対応しづらくなるのです。
野球では、右打者は右投手のボールに慣れているため、左投手の球筋を打ちにくい傾向があります。
テニス界でもこの傾向は顕著で、トップ選手の約4割が左利きだとされる時期もありました。
8. 片頭痛になりやすいという報告
前述の研究と同じ系列の科学的調査では、左利きの人は右利きの約2倍、片頭痛を経験しやすいという結果も出ています。
すべての左利きに当てはまるわけではありませんが、神経系の特性が、頭痛の起こりやすさに関係しているのではないかと考えられています。
9. マルチタスクが得意な人が多い
二〇〇八年にイリノイ州の研究コンソーシアムが集めたデータによると、左利きと右利きでは、課題の処理や記憶の使い方が異なることが示されました。
二つの作業を同時に与えた実験では、左利きの参加者の方が総合的な成績が良かったそうです。
- 右利き…問題を細かい部分に分解し、一つずつ順番に分析する傾向
- 左利き…全体像をまず把握し、パターンを見つけて解決しようとする傾向
この思考スタイルの違いが、同時に複数のことをこなす「マルチタスク能力」に影響していると考えられます。
10. 芸術性や創造性に優れる傾向
左利きは、芸術的な感性や創造力と深く関わる脳の領域が優位であることが多いと言われています。
そのため、
- 絵画やデザイン
- 音楽やダンス
- クリエイティブな発想を求められる仕事
などで才能を発揮しやすいという説があります。
また、左利きは言語よりも視覚情報から物事をとらえる傾向があるともされ、これも芸術的な表現と相性が良い理由の一つと考えられています。
11. 睡眠の質に影響することも
左利きであることが、睡眠の質にも関わっている可能性があります。
周期性四肢運動障害(PLMD)という病気では、眠っているあいだに手足が無意識にピクピク動いてしまいます。
二〇一一年に行われた「右利きと左利きの患者における周期性四肢運動の比較研究」では、
- 右利きの被験者…約69%が両側の四肢に運動が見られた
- 左利きの被験者…約94%に両側の運動が見られた
という結果になりました。
寝ているあいだにパートナーをよく蹴ってしまう左利きの人は、この傾向が少し関係しているのかもしれません。
12. 左利きは右脳をより多く使うといわれてきた
脳と体は「交差配線」になっていて、右脳が体の左側を、左脳が体の右側を主に制御しています。
このため「左利きは右脳をよく使う」「左利きは文字どおり“右”の脳を使うから創造的だ」といったフレーズが広まりました。
一般に、右脳は
- 芸術
- 音楽
- 直感
- 空間認知
などをつかさどると考えられています。
しかし、ワシントン大学が二〇一八年に行った、片腕だけの三次元的な動きを詳しく解析した研究では、
従来考えられていたほど「右脳か左脳か」という分担は明確ではなく、両半球がより協調して働いている可能性が示唆されました。
ただし、この研究に参加した被験者はわずか4名であり、脳と体の関係について結論を出すには、今後も多くの研究が必要だとされています。
13. 左利きそのものを恐れる人もいる
世の中には「左側のもの」を過度に恐れる人もおり、その中には左利きの人への恐怖も含まれます。
このような症状は「シニストロフォビア(左側恐怖症)」と呼ばれています。
日常生活に支障が出るほど強い恐怖を感じるケースもあり、歴史的な偏見や迷信が心理的な影響として残っている例だとも言えます。
14. 舌を丸めるのが苦手な人が多い?
左利きの人が、舌をくるっと丸める「舌巻き」がどれくらいできるかを調べた研究もあります。
その結果、
- 左利きで舌巻きができた人…約62.8%
- 右利きでできた人……約74.8%
となり、左利きの方が舌巻きできない割合が高かったそうです。
日常生活に支障はありませんが、ちょっとした遺伝的・生物学的な違いとして興味深いポイントです。
15. 歴史的には「不吉」「邪悪」とされてきた
世界各地の文化史の中で、左利きはしばしばネガティブに扱われてきました。
- 弱い
- 不運
- 腐敗している
- 邪悪な力と結びついている
などと見なされることも多かったのです。
英語で「不吉な、邪悪な」という意味を持つ言葉「シニスター」は、もともとラテン語で「左」を意味する語に由来するとされています。
言葉の成り立ちからも、左側が長いあいだ好ましくないものとして扱われてきたことが分かります。
16. 思春期の訪れが少し遅いという説(裏付けは薄い)
「左利きは右利きよりも、平均して4〜5か月ほど思春期の到来が遅い」という説が、インターネット上でよく取り上げられています。
ただし、この主張をしっかりと裏づける信頼性の高い研究はほとんど見当たらず、真偽ははっきりしていません。
現時点では「そういう説もあるが、科学的な証拠は乏しい」と考えておくのが良さそうです。
17. 「平均寿命が9年短い」は誤解だった
「左利きは右利きより平均寿命が9年短い」という話も広く知られていますが、この統計は後に誤りと判明しています。
一九八〇年代に、カリフォルニア州で亡くなった約一〇〇〇人を対象にした研究が行われ、
そのデータから「左利きの死亡年齢は右利きより約9年若い」と結論づけられました。
しかし、この研究には
- 対象者が高齢者に偏っていた
- 左利きが社会的に受け入れられていなかった世代が多く含まれていた
- 生まれた年代や背景の違いが十分に考慮されていなかった
といった問題があり、その後の精度の高い研究では「左利きだから寿命が短い」という確かな証拠は見つかっていません。
現在では、この「9年短命」説は、左利きに関する代表的な誤解のひとつとされています。
まとめ:左利きは「不便」以上にユニークな強みがある
左利きの人は、右利き用に作られた道具や社会の中で、子どもの頃から工夫しながら生きてきました。
その一方で、
- 脳の使い方の違い
- マルチタスク能力や創造性の高さ
- スポーツでの優位性
など、右利きとは異なるユニークな特性や強みを持っていることも、さまざまな研究から見えてきています。
迷信や偏見にとらわれず、こうした事実を知ることで、左利きという個性をより前向きにとらえられるようになるはずです。


